個人主義の崩壊と喚起の勃興について
ブログも残すところあとひとつ、本日夜には三味線文化譜を掲載しますが、先にご挨拶させて頂きます。
今年の破沙羅記念日も今日で終わりです。
お読み下さった方、ありがとうございました。
毎年この三日間を破沙羅を想うよすがにしようとせっせとブログを書いて参りましたが、さすがにネタ切れです。来年はもう書くことがないかも。
昨年の二次創作ですべてのキャラクターを書き終え筆を置いたとき、
「あたしをお忘れでないかえ?」
と出てきた方がいて、今年もお話を書くハメになりました。
義経は何故その場にいる者すべての心を捉える舞を舞えたのか?との自分の疑問から出発した話ですが、実は裏設定がありまして。作中で阿国とされている女性は出雲の阿国かもしれないし、阿国を彷彿とさせる別の女かもしれない。恋人は名古屋山三かもしれないし、別の男かもしれない。ひとつ言えるのは、彼女ははるか昔から舞の道を究めんと、人外となって現代まで長い時を生き続けているということ。
前作のラストの義経の言葉「力を貸してくれた者たちにお返しせねばならぬ」と、各人の体から光の玉が抜け出し空へと還っていく描写をしましたが、破沙羅草紙の世界と現世はある種の平行世界で一部が繋がっているんです。破沙羅のキャラクターの源となる義経や弾正が代々木に降臨したのと平行して、物語世界の中に大輔さんや染五郎さんの魂の一部が飛んでいき彼らに宿った。阿国はそのどちらの世界にも存在するのです。肉体は現世に、魂は破沙羅の世界に、と分かれ分かれになって。
阿国は長い時を生き、かつての恋人が転生するのを待ち続け、ただ共に舞う。阿国が破沙羅草紙の世界に来たのはひょっとしたら現世の現代に生きるその男の心の奥底にある「義経を手助けしてほしい」との意を汲んだのかもしれません。男には前世の記憶はなく阿国のことがわからないのだけど。
「脱出」のラストは阿国がいつもの陽気な口調で「ちょっとひどいじゃないか。あたしを置いていこうってのかい?」と義経の体に戻ってくるはずでした。ところが彼女、作者に断りもなく成仏しちゃったんですね。これは漫画「ヒカルの碁」の藤原佐為が神の一手を打った直後に昇天したことに通じます。義経の体を借りて会心の舞を舞った阿国は長い生を閉じ輪廻の理の中に戻ります。
「桜風」で男が「来世はいっしょの時を生きよう」と言ったのは、現世での阿国であった者の肉体の死に喚起されて記憶を取り戻したのでしょうか?ご想像におまかせします。さて、彼は誰なんでしょう?ふふふ。
物語を書いている間、ずっとBGMにしていたのが長唄の「鞍馬山」です。
長唄「鞍馬山」
義経が鞍馬山に稚児として預けられていた少年時代の話(歌詞の中では牛若丸となっているが、実際には遮那王と呼ばれていた頃)
人づてに自分が源氏の御曹司であると知らされた牛若丸は、平家打倒を心に誓い、夜な夜なひそかに剣術修行に励む。
剣術修行の相手になるのは、鞍馬山に棲む大天狗の僧正坊と、その手下の木の葉天狗。
闇夜に木太刀の音がこだまする。
牛若丸は空を切って打ちかかる小天狗の木太刀を払いのけて応戦する。目にもとまらぬ技と技。
勝負ついたかと思うところ、背後に現れたのは、大天狗。
打ち合う音が夜の森にこだまして、その迫力に、闇夜にひそむあやかしたちも舌を巻く。
気合のこもる牛若丸の太刀筋に、さすがの大天狗もじわじわと追い詰められる。
今宵はここまで、続きは明晩。
ひらりと身をかわした大天狗は、手下を引き連れ、闇のどこかへ飛び去った。
長唄を聴くと唄と三味線の調べから情景があざやかに目の前にたち現れるのです。
二次創作小説に書いた大天狗はここからヒントを得ました。
今回の二次創作にはいろいろな長唄のイメージを入れています。
以下、曲名を列記しますので、どの場面か想像してみてくださいね。
長唄
○鞍馬山
前述のとおり
○賤の苧環
以前のブログに記載→
○二人椀久
以前のブログに記載→
○阿国歌舞伎
華やかな歌舞伎おどり一行の登場に続き阿国に「小町と少将」の道行きを舞えとのご所望あり。そこで相手役の少将に「日本一の好い男」と、名古屋山三を選んだ阿国は道行を演じながら、気づけば山三に己の憂き身を吐露していく。
○蜘蛛拍子舞
源頼光に仇せんとする葛城山の女郎蜘蛛が美しい白拍子妻菊に化けて頼光に近づき、 色仕掛けでだまそうと拍子舞を踊る。
○京鹿子娘道成寺
以前のブログに記載→
○鵺退治
源頼政に帝を悩ます物の怪を退治する勅命が下る。頼政が邪気を払うために弓の弦を鳴らす鳴弦の法を行うと、凄まじい響きとともに現れたのは、頭は猿、躰は狸、尾は蛇、手足は虎に似た鵺であった。
○小鍛治
名高い刀鍛冶の三条小鍛冶宗近が帝より刀を打つように命じられる。しめ縄を張って刀を打つ準備を整えると、稲荷明神の化身が現れて相槌を打つ。完成した刀は子狐丸と呼ばれ、後世に伝わる名刀となった。
○(番外編として)吉野山
忠信狐の登場する歌舞伎舞踊は義太夫の「吉野山」ですが、こちらは幕切れ前の花道で六方での引っ込みを使わない場合に黒御簾の長唄を使うことがあるので、ちょっとだけ長唄に関連のあるものとして入れてしまいましょう。
ちなみに前作「大海原海上決戦の場」に入れた長唄は「勧進帳」と「賤の苧環」でした。
二次創作小説「桜鬼」の冒頭の義経の笛はこちらをイメージしました。
長唄囃子方の藤舎名生さんの創作「鞍馬山」の中の義経の笛の段です。
物語を書いている間は義経と逢瀬を重ねるようでとても幸せでした。昔から歴史上のヒーロー義経が大好きでした。わたしの持つ義経のイメージは凛として高潔、真面目で堅物だけど人たらし。自分で書いていて、義経が動くのがわくわくするんです。 とくに戦闘場面を書いていると脳裏に義経の華麗で舞うような太刀捌きが見えて、ぞくぞくします。文章に上手く起こせず自分以外の方には伝わらないのですが。
義経が闇の国の宴に単身潜入したのは瓊瓊杵と木花を奪われ、弁慶をも失った自分の不甲斐なさ、自分
に対する怒りから。そんな義経の懊悩を冒頭で書きましたが、そこには実際の義経が逃避行の末、佐藤継信忠信兄弟をはじめ多くの配下を失って失意の中にいたであろうことにも思いをはせています。義経は終焉の地である奥州でずっと自分を責め続けて、心から笑うことはあったのだろうか。そう思うと転生というものが本当にあるならば、今この現代で彼が平凡な幸せの中に生きていればいいのに、と心から思います。
わたしの考えた設定では、弁慶は阿国と同じく肉体を破沙羅の世界に召喚できなかったため、魂だけが猿田彦に宿った、としています。女神稲生の力で黄泉の国から呼び戻されたのは猿田彦だけ、弁慶は猿田彦の身替わりとして黄泉の国へと下ります。
破沙羅の世界で再び弁慶を失った義経ですが、きっとその後の生の中で幾度も弁慶と巡り会えたのではないでしょうか。
そして現代に転生した義経は前世を思い出すことなく、静と恋に落ち、いっしょに破沙羅の公演を観る。 そうであればどんなにか素敵でしょうね(注:昨年書いた物語の「邂逅」は弾正と岩長姫のお話です。)
物語を書き続ける限りは彼らと再会できることが嬉しい。
前作と違って登場するキャラクターはエコヒイキしてる人ばかりなんですけど。
「脱出」の弾正さま、手から緋色の糸を出す術を使いますが、これは松本幸四郎さん主演の「阿修羅城の瞳」で幸四郎さん演じる出門が使う「緋糸しばり」です。弾正さまでやってみたかったの。
ひとつお断りが。
物語の中で岩長姫が宴席での舞を見て「ほんの小手先の芸にしか見えぬ」などとぬかしておりますが、これは話の進行上必要なことで、実際の闇の国宴の場での郡舞はとても素晴らしいと思います!
今年もわたしの妄想にお付き合い下さった皆さま、ありがとうございました。
もうネタ切れでたぶん書けません。
え、なに?寝所の場書けって?
やなこった。
では、また来年の記念日にお会いできるかどうか定かではありませんが(ネタがもうない)いつも心に破沙羅を。
再演祈願と共にこれからもずっと語り継いでまいりましょう。
謝辞
今回も予想を覆す素晴らしい絵を書いて下さったももはむ君に心からの感謝を捧げます。
前作では完全にももはむ君に一任して自由に書いて頂いた結果、とても素晴らしい作品世界を創造して頂きました。
ところが今回は攻防がありまして。
まず、大天狗の絵を頂いたのですが、ものすごい美形に書いておられて、しかも天狗ですらない(笑)
「あのう、ももはむ君、天狗で、しかもじじいなの」
「承知しました」
そしたら今度は
「琵琶法師、美形に描いていいですか?」
「あかーーーーーん!!!💢」
美形好きなのは知ってるんだけど(汗)
そんなこんなでダメ出しすること数回(笑)
掲載直前になってデータがぶっ飛ぶなどのとてつもないアクシデントを乗り越え、またしても想像も限界も超える作品をありがとうございました。
※氷艶2017破沙羅2周年記念として三日間で公演数と同じ6つのブログを掲載します。
こちらは5つめとなります。
あとひとつ、夜には破沙羅の長唄の譜面を掲載します。
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