ゲノムに見る男女の違い
僕らはみどりちゃんから、カーネーションのCHI遺伝子、DFR遺伝子など遺伝子のクローニング、すなわちDNAの中から、目的のタンパク質の情報を持った部分を特定し、その部分だけを単離し、増幅する方法を優しく学んだ。
「みどりちゃんのおかげで、植物からどうやって目的の遺伝子を取り出すのか、よくわかったよ。ありがとう」
「いいえ。意外に力仕事なんです」
「えい! って感じの多少のひらめきを元に」
「目的の遺伝子部分の特定。これが結構難しいですね」
「隆は褒めてたよ。みどりちゃんは遺伝子取りの達人だって」
「そんなことないです。隆先輩もすごいです」
「隆先輩の研究テーマは生物化学においての天然物化学、酵素、そしてゲノム編集を含む遺伝子工学と幅広いのに、楽々とこなしています」
「うちの正も、研究分野が幅広いのに、いろいろ楽々とこなしているんですよ〜」
「恵ちゃん! ちょっと待った」
「まずは、みどりちゃんの話を最後まで聞こうよ」
みどりちゃんが話を続ける。
「天然物化学の目的は有用な物質を発見し、それが本当に有用であるかを確認し、もし有用ならば、その供給法を確立することにあります」
「天然物の単離、構造決定、そして合成です」
「なんだ、隆の研究、僕らの一連の色素の研究にそっくりだね。僕らには合成はないけれど」
「ある意味、皆さんの研究は私たちの研究にとても近いんです」
「私たちの生命工学研究室の目的は、工学的に、例えばタンク培養などで目的物の合成を行う」
「皆さんの研究は遺伝子を見つけて植物に組み込む、あるいはその情報を元に育種をすることで、植物自身で、例えば色素の合成を行わせる、というところが少し異なります」
「私たちの研究は、研究の過程で発見される酵素利用、目的物を合成するための遺伝子利用、そしてその合成の工学的手法、そんな風に研究が繋がっていきます」
「正先輩方は、園芸学から少し離れた自由研究の中で天然物科学、遺伝子の研究をやっているからすごいと思います」
「正先輩や恵先輩の色素研究、義雄先輩の遺伝子研究。うまく繋がって、スムーズにことが運んでいると思います」
「いや、僕のは大部分がみどりちゃんのおかげ」
義雄が照れ臭そうに答える。
「みどりちゃん。元々はどこかのおてんばさんが、カーネーションのオレンジ色の秘密を解明したいと言ったことから始まって……」
「繰り返しますが、うちにもいろいろな仕事を、スムーズにこなす輩がいるんです」
恵ちゃんは、ニコニコしてみどりちゃんに話す。
みどりちゃんは微笑む。
「恵ちゃん、僕は楽々ではないよ」
「恵ちゃんのためだよ、全く……」
「そう、実は正しくん、忙しくて、そして貧乏なんです」
みどりちゃんが、大きめの笑い声でフフフと笑う。
「貧乏は余計だよ」
「あら、こういう句があるのよ」
「正くんに、つるべ取られてもらい貧乏」
「誰、そんな句を読んだのは?」
「さあ?」
「朝顔や、つるべ取られてもらい水、でしょ?」
「句の意味は、ある朝、井戸に水を汲みに行ったらつるべに朝顔のツルが巻きついていて、水を汲むには、その朝顔を取らなければいけない」
「でも、あまりにもキレイな朝顔なので取ってしまうのはあまりに惜しいから、このままにして隣へ水をもらいにいきましょう」
「そういう意味だよ」
「どこから、つるべ取られてもらい貧乏、という発想が生まれる?」
「アメリカ行っても、1年間、庭師の給料だけだから貧乏、続きそうだしね〜」
恵ちゃんは、カラカラ笑う。
みどりちゃんも大きく笑う。
「何より、誰がアメリカ行き、僕に決めた?」
「あら? 違うの?」
「もう流れができているじゃない」
確かに、僕がアメリカ行きの流れに乗せられている。
「お祝いに、滅多に行かないけど、バーガーショップに行こうか?」
恵ちゃんが、思いついたように話し出す。
「生協の2階の、喫茶ラ・ヴァルスの奥隣」
「なんて言ったっけ?」
「トムズドック」
みどりちゃんが答える。
「そうそう、トムズドック」
「確かアメリカンドックみたいのがあったと思う」
「あった、あった! 思い出しました」
「じゃあ、大樹くんはいないけど、みんなでお祝いね!」
みんなで、きゃっきゃ、きゃっきゃ盛り上がっている。
「アメリカンドック? あの、僕さ……まだ……」
僕は実験室の方へ、恵ちゃんの手を引き連れ出す。
「あのさ、僕。1年間、恵ちゃんを抱けないなんて耐えられない」
「そうきたか」
「下半身で答えないでよ正くん。正くんには賢い頭があるでしょうが」
「まだ6月よ?」
首を傾げて恵ちゃんは優しく微笑む。
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「そんなことないです。隆先輩もすごいです」
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「うちの正も、研究分野が幅広いのに、いろいろ楽々とこなしているんですよ〜」
「恵ちゃん! ちょっと待った」
「まずは、みどりちゃんの話を最後まで聞こうよ」
みどりちゃんが話を続ける。
「天然物化学の目的は有用な物質を発見し、それが本当に有用であるかを確認し、もし有用ならば、その供給法を確立することにあります」
「天然物の単離、構造決定、そして合成です」
「なんだ、隆の研究、僕らの一連の色素の研究にそっくりだね。僕らには合成はないけれど」
「ある意味、皆さんの研究は私たちの研究にとても近いんです」
「私たちの生命工学研究室の目的は、工学的に、例えばタンク培養などで目的物の合成を行う」
「皆さんの研究は遺伝子を見つけて植物に組み込む、あるいはその情報を元に育種をすることで、植物自身で、例えば色素の合成を行わせる、というところが少し異なります」
「私たちの研究は、研究の過程で発見される酵素利用、目的物を合成するための遺伝子利用、そしてその合成の工学的手法、そんな風に研究が繋がっていきます」
「正先輩方は、園芸学から少し離れた自由研究の中で天然物科学、遺伝子の研究をやっているからすごいと思います」
「正先輩や恵先輩の色素研究、義雄先輩の遺伝子研究。うまく繋がって、スムーズにことが運んでいると思います」
「いや、僕のは大部分がみどりちゃんのおかげ」
義雄が照れ臭そうに答える。
「みどりちゃん。元々はどこかのおてんばさんが、カーネーションのオレンジ色の秘密を解明したいと言ったことから始まって……」
「繰り返しますが、うちにもいろいろな仕事を、スムーズにこなす輩がいるんです」
恵ちゃんは、ニコニコしてみどりちゃんに話す。
みどりちゃんは微笑む。
「恵ちゃん、僕は楽々ではないよ」
「恵ちゃんのためだよ、全く……」
「そう、実は正しくん、忙しくて、そして貧乏なんです」
みどりちゃんが、大きめの笑い声でフフフと笑う。
「貧乏は余計だよ」
「あら、こういう句があるのよ」
「正くんに、つるべ取られてもらい貧乏」
「誰、そんな句を読んだのは?」
「さあ?」
「朝顔や、つるべ取られてもらい水、でしょ?」
「句の意味は、ある朝、井戸に水を汲みに行ったらつるべに朝顔のツルが巻きついていて、水を汲むには、その朝顔を取らなければいけない」
「でも、あまりにもキレイな朝顔なので取ってしまうのはあまりに惜しいから、このままにして隣へ水をもらいにいきましょう」
「そういう意味だよ」
「どこから、つるべ取られてもらい貧乏、という発想が生まれる?」
「アメリカ行っても、1年間、庭師の給料だけだから貧乏、続きそうだしね〜」
恵ちゃんは、カラカラ笑う。
みどりちゃんも大きく笑う。
「何より、誰がアメリカ行き、僕に決めた?」
「あら? 違うの?」
「もう流れができているじゃない」
確かに、僕がアメリカ行きの流れに乗せられている。
「お祝いに、滅多に行かないけど、バーガーショップに行こうか?」
恵ちゃんが、思いついたように話し出す。
「生協の2階の、喫茶ラ・ヴァルスの奥隣」
「なんて言ったっけ?」
「トムズドック」
みどりちゃんが答える。
「そうそう、トムズドック」
「確かアメリカンドックみたいのがあったと思う」
「あった、あった! 思い出しました」
「じゃあ、大樹くんはいないけど、みんなでお祝いね!」
みんなで、きゃっきゃ、きゃっきゃ盛り上がっている。
「アメリカンドック? あの、僕さ……まだ……」
僕は実験室の方へ、恵ちゃんの手を引き連れ出す。
「あのさ、僕。1年間、恵ちゃんを抱けないなんて耐えられない」
「そうきたか」
「下半身で答えないでよ正くん。正くんには賢い頭があるでしょうが」
「まだ6月よ?」
首を傾げて恵ちゃんは優しく微笑む。
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